平等な社会にするために
「AIやロボットには個人的には肯定的であり我々の生活を楽にしてもらえるものと捉えている」。そう話すのは、中流家庭に育つロンドン在住の14歳の少年Hさん。イギリス人のHさんは、今後の社会をどのように思い描いているのでしょうか。
欲しいロボットは基本的なことをしてくれるロボット
Hさんに自分が欲しいロボットの姿を絵に描いてもらいました。(図1)インタビューの中でHさんは、「家事をロボットに任せることは絶対に良い。なぜなら、自分の時間がもてるから」と言っていました。また、「将来AIとロボットによって仕事をなくすのではなく、楽にしてもっと自由な時間がとれたらいい」とも語っています。
複雑な仕事は人間に、単純な仕事はロボットに、というように分担し、ロボットはあくまでも人間のアシスタント的存在であるべきだ、との事でした。Hさんが描いた絵からは、ロボットの見た目が柔らかいものではなく、硬く機械的なものであるという印象を受けました。
図1
「入力したレシピを調理するロボット。たくさんの腕が多くのタスクを行ない、できるだけ早くご飯を作る。蜘蛛のような足は、機動力とスピードを可能にする。」
コロナ禍でわかった人間の必要性
ロックダウン中の経験について聞いてみると、「僕は、ロックダウン中にオンライン授業よりも、先生から送られてきた宿題をこなすことで多くのことを学んだ。だから、先生や医者はロボットではなく、実在の人間であるべきだと思う」と言っていました。
オンライン授業で学ぶことは宿題で十分に学べるような内容であったため、勉強はオンラインではなく教室で人間から教わりたいという事でしょう。コロナ禍で急速に進んだデジタル化を経験し、教育現場や医療現場での人間の必要性という新たな発見があったのですね。
2050年の未来予測
Hさんは自身の将来の夢について、「私の夢である音楽の先生の仕事はそのまま残るが、AIを利用して一部をアシストしてもらうことになるかもしれない。創造的な仕事、例えばゲームやアート、映画、音楽などは、人間によって創られ、AIは部分的にアシストすることになるだろう」と語っています。Hさんは、創造力を持った人間と、効率性や正確性が備わったロボットでそれぞれの特性を活かし、仕事を分担する必要があるという一貫した意見を持っていました。
また、「少数の富裕層だけがテクノロジーを所有することができるので、貧困な人々は貧困のままで、今と同じような仕事をしていく」という懸念もあると言っていました。その懸念から、「2050年の理想的な社会は皆が平等な社会で、そのために私たちの生活を助け、より多くの自由な時間を与えてくれるAIやロボットを利用するべきである」と言います。「2050年には、人間は気候変動により崩壊した地球を脱出し、火星に移り住む」と語るHさんの理想の社会(図2)には、green party(緑の党)やBLM(Black lives matter)の旗などが描かれています。Hさんが望む社会は、人々が差別なく平等に暮らす、環境に配慮した社会であることが分かります。
図2
「この社会は、植民地化を終えた火星である。気候変動により崩壊した地球を脱出した後、green party(緑の党)が選出された。社会の価値観は、平等に基づいている。(よってバナーにハンマーと鎌、Black Lives Matterの旗を取り入れた。)技術は星間旅行を可能にするのに十分であるが、もちろん社会の中ではTFL(ロンドン交通局)が使われている。」
終わりに
Hさんのインタビューを通して、AIやロボットに抱くイメージの文化的な違いが見られました。ロボットに求めるのは正確性や効率性、客観的な意見であり、ペットのようなロボットはいらないと話すHさんは、ロボットは人間の仕事をアシストする道具に過ぎないと考えているようでした。その一方で、AIやロボットの活用については、人間とロボットのどちらかに偏ることなく仕事を分担するべきであるという意見で、日本の若者の意見と共通しているように思いました。